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大阪高等裁判所 昭和50年(ネ)704号 判決 1979年8月15日

控訴人 株式会社阪神相互銀行

右代表者代表取締役 山田時雄

右訴訟代理人弁護士 長桶吉彦

被控訴人 沢二郎

右訴訟代理人弁護士 榊原正毅

同 榊原恭子

同 田中藤作

同 久万知良

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

控訴人は、主文同旨及び予備的に「原判決を取消す。被控訴人の訴を却下する。」との判決を求め、

被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決三枚目表五行目の「別表三記載」を「別表三(1)ないし(15)及び(17)記載」と、同一一行目の「別表三の(1)ないし(16)記載」を「別表三の(1)ないし(15)及び(17)記載」と、同一七枚目別表三(7)の「印里」を「卯里」と一八枚目(別紙)四行目の「知恣」を「知悉」とそれぞれ訂正する。)であるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  本件第一回預金については、当時訴外山田正光は、自己の預金と言明していたところ、同人は原審証人として同人が被控訴人先代勇一を代理して控訴人へ預け入れ、払戻しを受けたものと証言するに至ったが、山田は満期に払戻しを受けた預金を第二回預金になすべく亡勇一から委託されたにもかかわらず、これを横領したもので第二回預金は控訴人が訴外京阪神土地株式会社へ手形貸付した九〇〇〇万円の内金八〇〇〇万円と山田出捐にかかる一〇〇〇万円により形成されたものであり、第三回預金は右第二回預金の一部を払渡した残金六五〇〇万円を書替え継続したものであるから、右各第二回、第三回預金の内には亡勇一及び被控訴人からの出捐にかかる金銭は一銭も混入されていない。右事実からすれば、本件第二回預金契約は山田と控訴人との間に成立したことが明らかで、亡勇一ないし被控訴人と控訴人との間には預金関係は発生しなかったものとみるべきであるから、被控訴人は亡勇一の相続人として第二回及び書替え継続された第三回預金の預金債権者となることはできなかったのである。

(二)  仮に、山田が第一回預金を継続する意思を有していたとしても、右山田の意思は控訴人の知ることのできない心裡留保にすぎないから無効であるばかりか、一方山田は控訴人からの手形貸付金により現実に第二回預金を形成させているのであるから、被控訴人が右第二回預金を取得しようとするならば、該定期預金債権の譲渡を受けねばならない。しかるに該定期預金債権は、控訴人の根担保の対象となっていて、債務者京阪神土地及び連帯保証人山田が債務を完済しない限り、第二回預金を亡勇一のものとすることはできず、また右定期預金債権には譲渡禁止の特約があるので、もし山田が右預金債権を被控訴人に譲渡していても、該譲渡行為は控訴人の承認を得ていないから無効である。なお、定期預金証書に基づく債権は指名債権であって動産ではなく、また右証書は商法第五一九条にいわゆる「金銭其他ノ物又ハ有価証券ノ給付ヲ目的トスル有価証券」でもないから、被控訴人において単に証書の占有を続けていても、本件定期預金債権を即時取得する余地はない。

(三)  控訴人は手形貸付により貸付けた金九〇〇〇万円の残金六〇〇〇万円の支払が遅滞したため、これを回収すべく昭和四三年一二月一九日債務者会社の更生管財人野沢幸三郎及び連帯保証人山田に対し右債権の担保として残存する債務者会社の本件第三回定期預金債権残金六五〇〇万円に対して相殺の意思表示をなし、元利金清算のうえ残余金四七六万一六六一円を右管財人へ決済したが、山田からこれに対してはなんら異議の申出もなかった。本件預金債権は右相殺及び支払により消滅したものである。

(四)  本件係争預金は、昭和四六年一〇月三〇日大阪国税局長より、控訴人を第三債務者とし、預金者である被控訴人に対し、相続税の滞納処分として差押えられており、被控訴人はその取立権能を有しない。したがって、仮に、被控訴人が本件定期預金の債権者であるとしても、本件訴は不適法であるから、これが却下を求める。

2  被控訴人の主張

(一)  本件預金の資金源が、控訴人又は山田正光であるとの控訴人主張は虚偽仮装にすぎない。定期預金債権が指名債権であり、また預金債権は銀行の承諾がなければ譲渡・質入等できないことは控訴人主張のとおりであるが、被控訴人は本件預金債権者が被控訴人であることを主張しているのであり、預金債権者が山田であることを前提とする控訴人の主張はすべてあたらない。

(二)  国税局が、滞納処分として、被控訴人の控訴人に対して有する本件預金債権を差押えたのは、もとより適法行為であり、また滞納処分は本件訴訟に法律上なんらの影響を及ぼすものではない。国税局は、資金の流れを調査の結果、本件預金は被控訴人のものであると認定したものである。

3  証拠関係《省略》

理由

一  原判決別表三の1ないし15、17の控訴人に対する記名式定期預金がなされたことは当事者間に争いない。

そして、《証拠省略》によれば、被控訴人が右定期預金証書と届出印鑑とを所持していることが認められ、反証はない。

二  右記名式定期預金の預金者について検討する。

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

1  訴外山田正光は、神戸市内で司法書士を開業するとともに不動産業を営業目的とする京阪神土地(三井銀行神戸支店ビル二階)の経営者でもあったが、昭和四二年一月中旬ごろ同人が大株主の姫田証券株式会社の末藤社長(もと三井銀行支店長)の紹介で控訴人本店との取引をするようになった。そして、山田は右京阪神土地の営業資金約一億円の融資を受けるにあたり、京阪神土地の一〇〇〇万円の定期預金及び京阪神土地所有の土地を正式に担保に供するほか、九〇〇〇万円の定期預金をしてこれをも担保に供することになった。そこで、かねて知合いの金融業を営んでいた被控訴人の実父亡沢勇一に、日歩四銭の有利な金利の支払をなすことを条件に右定期預金をしてほしい旨申入れ、亡勇一はこれを承諾し、同年二月上旬ごろ、控訴人に対する自己の定期預金とする意思で山田に金九〇〇〇万円を交付した。山田は右資金を一旦同人もしくは京阪神土地等の当座預金口座に預け入れた後同月九日、同月一〇日に山田振出の金額一〇〇〇万円・支払人三井銀行兵庫支店の小切手各一通により、同月一三日北神開発株式会社振出の金額一〇〇〇万円・支払人福徳相互銀行神戸西支店の小切手により、同月一五日京阪神土地振出の金額一〇〇〇万円・支払人幸福相互銀行神戸支店の小切手により、同月一六日現金二五〇〇万円、同月一八日現金一五〇〇万円により、同月二〇日北神開発振出の金額一〇〇〇万円・支払人福徳相互銀行神戸西支店の小切手により、亡勇一から右交付を受けた金員を控訴人係員に交付し、原判決別表一記載の架空名義による第一回定期預金(預金額合計九〇〇〇万円)をしたが、預金に際しては、山田は手元に用意した有合わせ印を届出印として係員に交付し、右印形に応じた適当な架空人(住所も適当に定める)を預金名義人とし、預金手続を依頼した。そして京阪神土地の控訴人に対する債務の根担保とするため前記届出印を使用して債務者京阪神土地及び担保提供者右各架空人名義の担保品差入証と題する書面を作成し、定期預金証書を差入れ包括根質権の設定手続が行われた。ところで、預金債権に対する質権設定に際しては、預金証書は質権者である銀行が占有するのが通常の取扱であったが、右預金については、山田より対税上の必要から預金証書を控訴人の元ではなく自己の手元で保管させてほしい旨の申出がなされたことから、控訴人は顧問弁護士栗岡善一郎とも相談したうえこれに応じることとし、山田より同年二月二三日山田名義の「上記定期預金(第一回預金)は私の預金に相違ありません。なお今般貴行に担保差入中のものでありますが、都合により預金証書は私が預りましたが、貴行の必要なときは何時でも返戻いたします。」旨記載した念書を提出させたうえ、質権設定を終えた預金証書は山田の手元で保管されることになった。山田は右返還された定期預金証書二九通及びこれに用いた届出印形を亡勇一に交付し、亡勇一はこれを手元に保管していた。

控訴人本店営業部の係員川辺俊彦、佐藤朗らが担当して右預金受入手続をしたが、右担当者らは、当時山田は他の銀行とも取引きし盛業中であり、また前記のように山田が自己の預金として預金手続を依頼したことから、右預金は山田自身のもので、同人が京阪神土地への融資を受けるにつき必要な裏預金として預金するものであると信じて所定の手続をした。ところで本件預金が山田の資金によるものであるならば、山田が右資金を直接京阪神土地へ貸与すれば、銀行への借入金利息と預金利息との差額を支払わなくてもよいわけであるが、山田はこのことにつき税務上同人のものと明らかにできない金を長期間京阪神土地へ貸付けられないと説明し、控訴人係員はこれを信じ、本件預金が導入預金であると思わなかった。そして京阪神土地に対しては、そのころ右預金額に相当する九〇〇〇万円の手形貸付が実行された。

2  前記京阪神土地に対する手形貸付(日歩二銭四厘)九〇〇〇万円については、一か月を単位とし、一部弁済、新規貸付が繰り返され、本件第一回定期預金の各満期に接近したころ全額弁済がなされた。そして京阪神土地に対し同年八月一〇日五〇〇〇万円、同月一一日四〇〇〇万円の新規貸付がなされ、山田は右貸付金のうち金八〇〇〇万円を京阪神土地に対する控訴人の手形貸付の担保となる新たな定期預金の資金とすることとし、右貸付金を同時に控訴人における山田個人の預金口座に振替え入金させ、さらに自己が用意した別口一〇〇〇万円の金員をも右口座に入金したうえ、これにより第一回預金と同じく手元に用意した有合わせ印を届出印として係員に交付し、右印形に応じた適当な架空人(住所も適当に定める)を預金名義人として第二回預金手続を控訴人係員に依頼した。そして、右第二回預金も従前同様京阪神土地の控訴人に対する債務の根担保とするため前記届出印を使用して債務者京阪神土地及び担保提供者右架空人名義の担保品差入証と題する書面を作成し、定期預金証書を差入れ、包括根質権設定手続が行われ、預金証書は山田の希望により第一回預金と同じ内容の念書(ただし作成名義人は債務者京阪神土地と保証人兼担保提供者山田)を提出させたうえ、同人の手元で保管することとなった。第一回預金については山田から名義人の捺印した預金証書の交付を受け、同月一四日第一回預金のうち満期の到来した厚判決別表一(1)ないし(10)の各定期預金合計三〇〇〇万円については、利息金を含めた各預金の払戻しと、満期の未到来の同表(11)ないし(29)の各定期預金合計六〇〇〇万円については、満期における元利金に相当する貸付を前記預金を担保にしてなしたうえ、山田に対し同日各金員の払戻が行われ、係員川辺が山田司法書士事務所で交付した。一方山田は右交付を受けた第二回預金証書一七通及び印形をそのころ亡勇一に手交し、右証書及び印形は亡勇一の許で保管されることとなった。

右第二回預金当時においても、これを担当した控訴人本店係員佐藤らは、前記第一回預金同様山田が自己の預金として預金手続を依頼したので右預金は山田のものであると信じ、山田個人の架空名義預金として第一回預金の払戻手続、第二回預金手続をなした。

3  亡勇一は右第二回預金の満期前である昭和四二年一二月五日に死亡した。その後山田は右第二回預金については預金証書を控訴人に交付し、内二〇〇〇万円の払戻しを受け、内七〇〇〇万円についてはいわゆる出納振替により、原判決別表三の第三回預金に書替え継続したが、名義は山田が手元に用意した有合わせ印を届出印として係員に交付し、右印形に応じた架空人(住所も適当に定める)を預金名義人として第三回預金手続を控訴人係員に依頼した。そして右預金(ただし別表三の17の筧武夫は日時の点から省かれている。)についても前同様京阪神土地に対する債務の根担保とするため前記届出印を使用して債務者京阪神土地及び担保提供者右架空人名義の担保品差入証と題する書面を作成し定期預金証書を差入れ包括根質権設定手続が行われ、念書(ただし「貴行と同社(京阪神土地)との取引約定書に基き、上記預金を、私に通知又は承諾なくして、貴行の意思で随時相殺されても私は貴行に対し何等異議申し上げません。」と付加されている。作成名義人山田。)を提出させたうえ、預金証書は山田の手元で保管されることになった。そして預金証書は山田から亡勇一の相続人である被控訴人に交付された。

4  京阪神土地は昭和四三年四月中倒産した。沢勇一も被控訴人も預金契約をするについて控訴人銀行へ赴いたことはなかったが、右倒産後の同年五月二一日被控訴人が始めて控訴人本店へ赴き自己の預金であることを告げたが、その時所持していた印形は届出印鑑と違っていた。

京阪神土地は昭和四三年三月三〇日手形貸付により借受けた七〇〇〇万円中六〇〇〇万円を支払わなかったので、控訴人は同年一二月二〇日到達の相殺通知書により山田に対し本件預金と相殺する旨の意思表示をして六二〇五万九二〇〇円を相殺し、なお残額四七六万一六六円は昭和四四年七月二三日、共立不動産株式会社(京阪神土地の更生会社)の更生管財人に交付した。

《証拠判断省略》

ところで銀行預金は寄託者である預金者の金銭の寄託の申込みと受寄者である金融機関の承諾及び右金銭の授受により成立する消費寄託契約であり、預金債権は指名債権であるが、多数の契約を迅速、かつ正確に処理するため、金融機関は契約に際し預金者に預金通帳又は預金証書を交付し、預金者の印鑑を届出でさせている。したがって記名式定期預金の預金者の確定に当っては、契約解釈の原則に従い、右契約において客観的に預金者と表示されたもの、すなわち、預金証書に表示された預金名義人を基準とすべきである。そして右預金名義人が架空人であるときは、預け入れ行為者の表示行為を中心として、右表示行為に対する金融機関の認識、預け入れ行為者の資格預金の目的たる経済的利益の出捐関係、預金証書、届出印の所持関係を考慮して定むべきである。

これを本件についてみるに、第一回預金は亡勇一の出捐にかかるものであるが、山田は九〇〇〇万円中五〇〇〇万円までは自己又は関係人振出の小切手により預金し、右預金が自己の架空名義預金である旨表示して自己の所持する有合わせ印を交付して預金手続をなすことを依頼し、右預金を、自己が経営する京阪神土地の控訴人に対する債務の担保として提供し、控訴人係員も右預金を山田自身の架空名義預金と信じて寄託を受け、右預金につき京阪神土地の控訴人に対する債務担保のため包括根質権の設定を受け、預金証書は山田の要請により同人に返還したとはいえ、念書を徴して権利確保の手段を講じており、右預金が表見的にはいかなる意味においても亡勇一の預金とは認め難いものであるから、第一回預金の預金者は山田とみるのが相当である。右預金の資金が沢勇一からの出捐によるものであり、預金証書、届出印を同人が所持していた事実も右認定を妨げるものではない。次に第二回預金は昭和四二年八月一〇日及び同一一日になされた京阪神土地に対し貸付けられ山田の個人名義の預金口座に入金された合計九〇〇〇万円の貸付金のうち八〇〇〇万円及び山田の出捐にかかる一〇〇〇万円であるが、前記認定事実からすると、右第二回預金は第一回預金の払戻しを予定してなされたものと推認され、預金の資金としては第一回預金の資金が継続しているものと認められる。しかし右預金の資金は直接的には山田出捐のものであり、しかも山田は控訴人に対し前同様右預金が自己の架空名義預金である旨表示し、所持する有合わせ印を交付して預金手続をなすことを依頼し、右預金を自己が経営する京阪神土地の控訴人に対する債務の担保として提供し、控訴人係員もこれを山田自身の架空名義預金として寄託を受け、右預金につき京阪神土地に対する債務担保のため包括根質権の設定を受け、預金証書は山田の要請により同人に返還したとはいえ念書を徴して権利確保の手段を講じているのであって、これによれば、本件第二回預金も預金者は山田であると認められる。右預金の資金が間接的には沢勇一からの出捐によるものであり、預金証書、届出印を同人が所持していた事実も右認定を妨げるものではない。そして、第三回預金(本件預金)は前記のとおり、第二回預金が書替え継続されたものであり、第二回と同様山田は右預金が自己の架空名義預金である旨表示し、所持する有合わせ印により預金手続をし、京阪神土地の債務の担保として提供し、控訴人係員もこれを信用(第一回預金、第二回預金を経て一層信用したことが推認される。)して前同様の手続をしたものであるから、第三回預金についても、預金者は山田と認められる。

右のとおり、第一、第二回預金のみならず本件預金も山田が預金者であるといわなければならない。

そうすれば、被控訴人の本件定期預金返還請求は理由がないことに帰する。

なお、被控訴人は、仮に本件預金債権の帰属に争いがあっても、被控訴人は本件預金証書と印鑑とを所持するから、債権の準占有者として本件預金の預金者と推定されると主張するが、債権の準占有者に対する弁済については、民法四七八条により、有効として、弁済者の保護がはかられてはいるが、預金証書及び届出印の所持者がその内容をなす預金債権につき正当な権利者と推定される根拠はなく、前記のとおり預金者認定の一資料であるにすぎない。右主張は失当である。

三  被控訴人は、本件預金が山田の預金であるとしても、第一ないし第三回預金の出捐者は亡勇一であるところ、控訴人は出捐者が勇一であること、又は少くとも山田の資金でなく導入預金であることを認識しながら山田に預金させ、しかも右預金債権に対する質権設定に際し慣行に反し預金証書を山田に返還し、そのため亡勇一及び被控訴人は山田から預金証書を受取り山田の横領行為を看破して同人に対する損害賠償請求権を行使する機会を逸し、かつ、本件預金の返還を受けることもできなくなり、預金相当額の損害を被ったが、右は控訴人の被用者がその事業の執行について被控訴人に損害を加えた不法行為にあたる旨主張する。

しかし、前記認定事実によれば、控訴人の担当者が第一ないし第三回預金の受け入れに際し右預金が亡勇一ないし被控訴人の出捐によるものであるとか、山田の資金ではなく導入預金であるとかを知っていたとは認められない。また定期預金証書は本来預金者に交付されるものであるから、質権を設定した預金証書を控訴人が山田に一時返還したことが、亡勇一ないし被控訴人の損害の発生と因果関係があるものとはいえない。(なお定期預金証書を質権設定者に一時返還しても質権が消滅するものではない。)そして前記認定事実からしては控訴人の不法行為責任を認めることはできないから、被控訴人の主張は採用できない。

四  よって、民訴法三八六条に従い原判決中控訴人敗訴部分を取消したうえ被控訴人の請求を棄却する(控訴人の求める訴却下の判決は、本件定期預金の預金者が被控訴人と認められる場合に備えて予備的になされたものにすぎないから、訴訟要件の欠缺を理由に訴却下の判決をなすべきではない。)こととし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 林義雄 弘重一明)

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